ベルトの摩擦係数はどの様に取得すれば良いでしょうか?
書籍「ベルト伝動・精密搬送の実用設計」の2.9.3摩擦係数を取得するための実験方法でプーリ回転法が紹介されています.
①動摩擦係数が取得されますか.
②プーリ回転法で静摩擦係数を取得するには,静止状態のプーリの回転トルクを徐々に上げていき,プーリが回転した瞬間のゆるみ側張力と張り側張力を用いて計算すればよいでしょうか.
③もしくは,別の方法があるでしょうか.
ご質問頂いた内容について,
1.本手法で計測される摩擦係数とは?
2.本手法,もしくは別の手法で静摩擦係数を測定可能か?
の2点について,それぞれ回答させて頂きます.

1.伝動中のベルト-プーリ間に生じる摩擦係数
オイラ理論に従いますと,摩擦伝動中のベルト-プーリ間に生じる摩擦は(よく静摩擦であると誤解されますが)動摩擦になります.
従って,プーリ回転法やベルト移動法,ベルト走行法で計測される摩擦係数(書籍中では実用上の摩擦係数μ’)は,全て動摩擦係数となり,静止摩擦係数を測定することは出来ません.これは,ベルト-プーリ間の動力伝達が動摩擦力,すなわちベルト-プーリ間の滑りを伴う摩擦力によって行われているためです.

2.本手法,もしくは別の手法で静摩擦係数を測定可能か?
先に述べました様に,ベルトをベルトとして評価する場合(書籍に紹介した3手法を含む),ベルト巻き付き部において,静止摩擦のみが作用する領域が存在しないため,厳密な静止摩擦係数を測定することは出来ません.
これは,ご質問の様に,静止状態からプーリの負荷トルクを増加させていき,回転した瞬間のトルク,張り側(ロードセルより)張力,緩み側張力(錘による負荷)を用いた場合においても同様になります.
なぜなら,ベルト-プーリ間が完全滑り(プーリが回転)となる前段階から,ベルト-プーリ間では微小な滑り(動摩擦)が生じるためであり,ベルト全体が静止状態から滑走状態に移行するわけではありません.そのため,マクロに静止状態の値を用いたとしても,厳密な静止摩擦係数を得ることは出来ません.(ただし,静止摩擦係数の目安となる値は得られるかもしれません)
どうしても,静止摩擦係数が必要とのことであれば,JIS K7125等に則って測定すれば,静止摩擦係数を測定することは可能ですが,試験片寸法等に制約があり,実用的ではないと考えます.
しかし,先に述べました通り,ベルト-プーリ間において,静摩擦が作用する領域は,理論上存在しませんので,静止摩擦係数を厳密に測定する必要はないと考えます.

オイラ理論の詳細は,当会の書籍や,ホームページの設計情報中,ベルトの設計理論をご確認頂ければと思います.

 

この回答は参考になりましたか?良ければクリックください参考になった
読み込み中...