ベルトコンベヤがスリップするかどうかを予測出来ますか?
平ベルトコンベヤで駆動プーリがスリップするかどうかを計算で求めることはできますでしょうか?
詳しいレイアウトが不明なため,以下に示す2軸+スライダベッドの平ベルトコンベヤ機構を例に回答させて頂きます.
ご質問頂いた内容について,
1.このコンベヤ機構において,スリップ(全域滑り)が生じる条件を理論的に予測することが可能か?
2.このコンベヤ機構に生じるスリップ(微小滑り)の大きさを理論的に予測することが可能か?
の2点について,それぞれ回答させて頂きます.1.コンベヤ機構における全域滑りが生じる条件
上記のコンベヤ機構で搬送するには,ベルトとスライダベッドとの間に生じる摩擦力F_\muを超える有効張力T_eが必要となります.
摩擦力F_\muは,搬送重量m_wとスライダベッド上のベルト重量m_bを用いればF_\mu=\mu_s (m_w + m_b) gと計算することが出来ます.ここで\mu_sは,ベルト-スライドベッド間の動摩擦係数です.
摩擦伝動理論であるオイラ理論によれば,ベルトとプーリとの巻き付き角度範囲\thetaにおいて,
・ベルトとプーリとが固着している領域(アイドル領域)
・ベルトとプーリとの間に滑りが生じ,動力を伝達している領域(アクティブ領域)
の2つが存在し,後者はベルト機構の負荷の増加に伴って増加します.このアクティブ領域の大きさ\phiは,\phi = \frac{1}{\mu_b} \log (\frac{T_t}{T_s})と,ベルト走行中の張り側張力T_tと緩み側張力T_sの比,およびベルト-プーリ間の摩擦係数\mu_bによって計算することが出来ます.
アクティブ領域の大きさが巻き付き角度範囲(\phi=θ)となった時,ベルト機構に全域滑りが生じると考えることが出来ます.
先の式の張り側張力T_tと緩み側張力T_sを取り付け張力T_0と有効張力T_eを用いて書き直せばT_t = T_0 + \frac{T_e}{2}T_s = T_0 - \frac{T_e}{2}となります.先の摩擦力F_\muと有効張力T_eとが等しいとすれば,(2),(3)式より全滑りが発生しない条件として\theta \ge \frac{1}{\mu_b} ( \log(T_0 + \frac{F_\mu}{2}) - \log(T_0 - \frac{F_\mu}{2}) )

を得ます.
上式の条件を満たす様に,ベルトの取り付け張力T_0(張率)を調整すれば,全域滑りを回避して搬送することが可能となります.なお,ベルトの取り付け張力(張率)に関しては,応力緩和後のベルトの特性(1%伸長時張力)を参照する必要があります.

2. コンベヤ機構における微小滑りの大きさを予測する方法
次に,コンベヤ機構における微小滑りの大きさを予測する方法について,先に紹介しましたオイラ理論によれば,機構に全域滑りが生じる以前から,ベルト-プーリ間には滑り(微小滑り)が存在します.そのため,機構に生じる滑り率は,負荷の増加に伴って,線形領域(負荷の増加に対して,滑り率の増加が線形的な領域),遷移領域(滑り率が非線形的に増加する領域),全滑り状態と変化します.この傾向は,当会出版の書籍「ベルト伝動・精密搬送の実用設計」P.102,図2.78で確認することが出来ます.
そのため,先の理論で求めた全滑り状態より前に,機構に生じる滑りが無視できない状態となる可能性があります.

線形領域の滑り率については,ゴムベルトなどの大きな伸びを伴って使用されるベルトについては,比較的精度良く予測する方法が当会の書籍にも掲載されています(「ベルト伝動・精密搬送の実用設計」P.32,式2.33).
金属ベルトなどの伸びが小さいベルトについては,文献等1)2)をご参照下さい.

オイラ理論の詳細は,当会の書籍や,ホームページの設計情報中,ベルトの設計理論をご確認頂ければと思います.

(1) 小武内清貴,大窪和也,福生亜斗,摩擦伝動中の平ベルトの剛体滑りを考慮した滑り率予測モデルの提案,日本機械学会誌,Vol. 89,No. 924,23-00073(2023)
(2)小武内清貴,大窪和也,摩擦伝動を行うベルト装置に生じるすべり率の予測技術,トライボロジー,No.448, pp.36-39(2024)

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