動力伝動にベルトを用いる場合,次の2つの要素から使用するベルトの種類や形等を決定できます.

動力からの選定

伝動用ベルトは,それぞれ伝えられる動力(伝動容量)が決められています.伝動容量は,平ベルトや歯付ベルトでは幅当たり,Vベルトでは1本当たり,Vリブドベルトでは1リブ当たりの伝動容量で示されています.
伝える動力とベルトの伝動容量に基づいて,ベルトの種類や形(種類や形,大きさ),幅や本数,リブ数を設定して使用すれば,必要な寿命を満たし,安全に,効率良く,動力の伝達を行うことができます.

機能からの選定

実際に動力の伝達を行う場合には,単に動力を伝えるだけではなく,より正確に回転を伝えたい,ベルトのメンテナンスを簡略にしたい,必要以上の負荷が掛かったときにはベルトを滑らせたい,といった色々な要望も満たす必要があります.

  1. 1.同期伝動を必要とする場合
    エンジンのピストンの動きに,燃料の吸気,燃焼ガスの排気を行うカムの動きを同期させるカム軸駆動が代表的な例である.また,ベルトの動きに合わせて移動する物体の移動量を正確に決めるための伝動用にも歯付ベルトが用いられる.
  2. 2.ベルトを滑らせたい場合
    農業機械に用いられているクラッチテンション機構で,クラッチが外れるときは,ベルトがプーリ上を滑っているだけであるが,クラッチが入ると背面アイドラがベルトを押し付けることにより張力を生じベルトが走行する.この場合,クラッチがオフからオンに変わるとき,ベルトに大きな滑りが生じる.このように使用中に大きな滑りを必要とする場合には,確実に滑りを生じるように,あるいは滑るときの不快な音を避けるため,主にラップドVベルトが使用される.
  3. 3.ベルトの走行面が平面でない場合
    農業機械に時として用いられるクォーターターン掛けでは,原動プーリ軸に対して従動プーリ軸が平行でなく,直角か直角に近い角度で設置されている.また,たすき掛け伝動では,従動プーリの回転方向を変えるため,ベルトは 1 回ねじられてプーリに掛けられる.このような伝動では走行面が平面でないため,ベルトにとっては大きな変形や厳しい屈曲が要求される.このため,丸ベルトや,薄く屈曲性の良い平ベルトや,比較的伸びが大きく異音を発生しにくいラップドVベルトが用いられる.
  4. 4.ベルトを接合して使用する場合
    穀物や茶葉の搬送に,バケットを取付けた平ベルトが用いられる.昇降機と呼ばれるこの搬送機に使用される平ベルトは,長さが 10m から 50m にも及ぶ.したがって,長いベルトを作ってから必要な長さに切りとり,バケットを取付けた上で,接合して使用する.バケットを取付けるための穴や接合部の金具を取付ける穴がベルトにあけられるため,心線層の強度低下の影響が少ない積層式の平ベルトが用いられる.
  5. 5.プーリ間隔の変化による変速の場合
    ベルトによる無段変速機構として最もよく利用されている方法で,この機構で使用される Vプーリは,プーリ幅を広げたり,狭めたりすることができるようになっている.Vプーリ幅が広がるとプーリの中で,ベルトはプーリ径方向に深く沈み込み,小さいプーリ径として働き,このとき他方のプーリは幅が狭まり,ベルトが外周方向に押し上げられることにより,大きいプーリ径として働く.このような機構では,プーリの半径方向に移動が可能なローエッジVベルトかラップドVベルトが使用される.
  6. 6.円錐プーリによる変速の場合
    原動,従動の両軸に円錐プーリ(コーンプーリ)をテ―パ方向を逆にして取り付けてベルトを掛けると,プーリの回転軸方向にベルトを移動させることによってプーリの回転比を変えることができる.すなわち,ベルトがプーリの軸方向に移動すると,ベルトに巻き付いている部分のプーリ径は,一方が大きくなると他方は小さくなるためである.このような変速をするために軸方向への移動が可能な平ベルトが使用される.
  7. 7.多本掛けを避けたい場合
    大形バスなどは発電量が多く必要となり,原動プーリとの回転比を大きくとる必要があるので,発電機のプーリは比較的小さいものになる.この制約から,小さいベルトを複数本掛ける場合が多くなる.複数本のベルトを取り付けると,1 本,1 本のベルト張力が揃わないため,バスのように伝動系自身に振動がある場合,ベルトが横転したり隣接するベルト同士が接触して損傷することがある.これを避けるため,ローエッジ結合Vベルトが用いられる. 結合Vベルトは,多本掛けを実施しているレイアウトにそのまま掛けられるように,多本掛けプーリの溝ピッチにベルトのピッチを合わせて作られている.
  8. 8.V-平ベルト伝動が必要な場合
    原動プーリと従動プーリの径の大きさが極端に異なる場合,一方の小さなプーリを駆動するには,伝動容量の大きなVベルトが必要で,他方の大きなプーリには正確なV溝を設けることが難しく,平プーリにする必要がある.このような場合,Vベルトの形状を持ちながらリブ面の先端は平ベルト状をしているVリブドベルトが用いられる.衣類乾燥機の乾燥ドラムの駆動がこの例で,原動プーリの径は約 15 mm,これに対して従動側の乾燥ドラムの径は 550~600 mm もある.
  9. 9.メンテナンスがしにくい場合
    自動車の補機駆動では,使用中にベルトの張り調整などのメンテナンスを行おうとすると,スペースが狭くて作業がしにくい,1 本のベルトの張り調整をするために,他のベルトやプーリまでを動かさなければならないといった不便さがある.このメンテナンスの煩わしさを低減するために,ローエッジVベルトに比べて,張り調整や故障による取り換えなどの頻度が少ないVリブドベルトが使用される.
  10. 10.軸荷重を小さくしたい場合
    OA機器やAV機器では,コンパクトで軽量であることが求められ,ベルトを掛けるプーリの軸も細く,軽いものが使用される.このような場合,小ピッチの歯付ベルトを使用すれば,軸に掛かる負担を小さくすることができる.
  11. 11.速やかに起動させたい場合
    自動ドアは,前に人が立ったとき速やかにドアが開く必要があり,また,産業用ロボットでは,動くべきときに速やかに動き,止まるべきときに速やかに止まらなければ能率が上がらず,効果が激減してしまう.
    このように,速やかに起動させたい場合には,起動時の滑りがない歯付ベルトがよく使用される.