Vベルトの寿命予測について
書籍「工業用伝動ベルト」を参考にVベルトの寿命計算式を個人的使用の為に作成しています。
Vベルトの寿命予測の考え方をお教え下さい.
Vベルトの場合,通常に使用される場合に心線が破損することはなく,損傷は一般にゴム部の亀裂により生じます.従って,心線はゴム部と比較して細く,心線を中立軸と考えれば,故障モードに合わせて心線の影響は考慮しなくてもよいのではないかという考え方があります.
一方,心線の材質のみを高弾性素材に変更することで,数値化はできていませんが,プーリに巻付けたときの曲げの抵抗値(曲げ剛性)が大きくなる結果があります.平ベルトの場合,プーリ径と弾性係数により寿命は大きく変わります.条件として,プーリ径(曲率半径)が小さく弾性係数が大きいと早期に亀裂が発生します.これは心線とそれに張り合わせているゴムの伸縮率の差と弾性係数の違いが大きいことによるものと考えられます.すなわち,心線とゴムの弾性係数が同じであれば,亀裂は起こりにくく,差が大きければ亀裂が起こりやすいと考えることができます.素材の構成と断面形状は違いますが,同じことがVベルトにも当てはまるものと考えられます.これらの事実から,心線も考慮するべきだとの考え方があります.また,Vリブドベルトの疲労破壊について,曲げ応力はゴムに破壊を発生させるほど高くはなく,ベルトとプーリの接触で破壊が発生していくという報告もあります(1).
寿命予測は,使用条件によって大きく異なり,未だに確たる検証がなされておらず,今後の研究成果に期待するのが現状ですが,Q&A委員会としては心線の曲げ応力も考慮して,次のように回答させていただきます.ベルトの寿命時間の計算式は,文献(2)を参考に作成したい旨の連絡をいただきました.その中で必要な曲げ応力\sigma_bの計算は,文献(3)で示されているように,次式で表されます.
\sigma_b = \frac{E h}{D} (1)
ここで,E:ベルトの縦弾数係数,h:ベルトの厚さ,D:プーリ直径
式(1)は,ベルト断面は変形後も同一平面を保ち,ベルトの引張および圧縮に対して弾性係数は等しく,中立軸はh/2にある場合です.このような場合,弾性係数はゴム部そのもので,ご質問の曲げ弾数係数を指しています.
しかしながら,ベルトに心線が抗張体として入っており,心線の弾性係数はゴム部のそれと比較して無視できない値ですので,ゴム部の他に心線も曲げ応力に関与しているものと考えます.
そこで,曲げ応力は,問題を簡単化するため,ベルトのゴム部と心線のそれぞれに分けて考えます.
ゴム部の曲げ応力\sigma_{br}は,次式で表されます.
\sigma_{br} = \frac{E_R h}{D} (2)
ここで,ER:ゴム部の縦弾性係数
次に,心線はベルト断面の中央(h/2)にあり,ベルト幅に沿って一律に高さdでプーリに巻かれているとすると,心線の曲げ応力\sigma_{bC}は次式で表されます.
\sigma_{bC} = \frac{E_C d}{D} (3)
ここで,E_C:心線の縦弾性係数,d:心線の直径
ベルトに作用する曲げ応力は,式(2)と式(3)を用いて計算を行い,どちらか大きい方の曲げ応力を採用すればよいと考えます.
ちなみに,E_Rは約10~20MPa,E_Cはポリエステル心線で約6~13GPa,dはメーカにより少し差がありますが,M型は約0.9~1.0mm,A,B,C型は約1.2~1.4mm,D,E型は約1.8~2.0mmです.

参考文献

  • 髙木文哉,村吉浩明,飯塚 博,Vリブドベルトにおける疲労破損に関する研究(リブ先き裂発生機構解明),日本設計工学会 2015 年度秋季研究発表講演会,2015年10月,pp.143-144.
  • 網島貞夫著,工業用伝動ベルト,1968年9月オーム社発行,pp. 161-163.
  • ベルト伝動技術懇話会編,新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計,2006年8月養賢堂発行,pp. 29-30.
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