当会の講演会が業界紙に紹介されました

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掲載情報:2018/10/05発行 2213号


ベルト伝動技術懇話会(大窪和也会長)は9月21日、京都府京田辺市の同志社大学の今出川校地の弘風館において、企画委員会主催による「第24回講演会」を開催した。今回のテーマは“ベルトを作る人も使う人も知っておきたい周辺技術~分析、機械~”で、ベルトのプーリからAC小型モーター、高分子材料の分析技術、FEM解析の活用、過酷な環境で活躍する潤滑油までと内容を幅広く網羅。学生やメーカーの技術者など約30人の聴講者が詰め掛け、各分野の奥深い専門技術の話に熱心に聞き入った。
開会に先立ち、あいさつに立った大窪会長は「今回は当会にとっても要となる講演会であり、内容については、さまざまな議論を交わし合った結果として決まった。目先を変えた講演内容を目指しており、学生を講師に迎えたミニ講演も組み入れることで、学生による取り組みも紹介させて頂きたい」と講演内容の特徴について説明した。


最初の講演は、同志社大学理工学部構造工学研究室の大学院に所属する堤昴太氏による学生講演でスタート。テーマは「遊星プーリと太陽プーリ間に掛けた平ベルトの相対すべり角度」の実測で、遊星プーリと太陽プーリの試験装置における平ベルトのすべり角度の実測データを導き出した。ベルトの動力伝達にはベルトの滑りが大きな要素となるが、直接の滑りの観察にはベルトとともに周回する必要があり、その課題を解決するために新たな機構を採り入れた“ベルト周回駆動式試験機”を用意。ベルト・プーリ間の実際の滑り現象の観測・把握に取り組んだ。遊星プーリ(周回駆動式でいう従動プーリ)の自転を拘束し、公転させる機構によってベルト滑りを直接的に観測。平ベルトの滑り角度の実測においては、動画によって試験装置の動きを見せながら実際の計測状況を紹介した。結果として、無負荷の場合はベルトの滑り率は皆無であることを立証。有負荷の場合で試験を行うと、走行距離を元にした滑り率の実測値は1・98%となり、理論値である0・272%を大幅に上回った。新たな機構の試験機を用いることで引き出された結果であり、堤氏は「新機構による試験機の利点を生かしてベルト・プーリ間における局所的な滑り現象を詳細に把握できるようにしたい」と今後の展望を述べていた。
引き続き、オリエンタルモーターの中可南子氏が講師となり「AC小型モーターの特徴・構造・動作原理について」をテーマで講演。ACモーターの内部構造は、基本的に磁界を作るステーターと回転するローターで構成されており、動作原理の分かりやい例として“アラゴの円盤”を引き合いに出して説明。自由に回転できる銅の円盤と、それを挟み込むように磁石が配置されており、磁石を円盤のふちに沿って回転させることで、磁石の回転を追いかけるように銅板も回転する。これをACモーターの部品に置き換え、磁石をステーターの発生する回転磁界、銅板はローターの役割で回転する。動作原理の解説の後は、特性の仕様と見方を説明して講演を締めくくった。
続いてUBE科学分析センターの宮内康次が講師として登壇。テーマは「接着界面、ナノ物質、ゴム
の化学構造、樹脂劣化」で、まずはCFRPの界面強度評価法について紹介。マイクロドロップレッド試験とナノインデンテーション(プッシュアウト試験)の2つの試験法についての解説を行った。マイクロドロップレット試験は「理想的な形の試験法として存在」(宮内氏)し、モノフィラメントにマトリックス樹脂のドロップレットを付けたモデルコンポジットを作製、引き抜きの荷重から界面のせん断強度を評価する。ナノインデンテーション法は、CFRPを薄く裁断し、カーボンファイバーを引き抜く際の抵抗力を測定する。
ブタジエンゴム(BR)の化学構造解析については、最近では低燃費タイヤの原料として需要が高まっている状況を説明。低燃費タイヤの高性能を引き出すためには、BRを分子構造からカスタマイズする過程が必要で、ミクロ構造・立体規則性を検証し、推測の域を出なかった事象(長鎖分岐点)を実際に検証するなど、さまざまな材質の解析手法を紹介した。
講演会も後半に進み、三ツ星ベルトの村吉浩明氏が「弊社におけるFEM解析の活用実例の紹介」のテーマで講演。FEM(有限要素法)は、数値解析の手法であり、「ベルトメーカーである当社としては、形状や材料変更時にFEMを活用するように勧めている」(村吉氏)。非線形FEMには、材料非線形、幾何学非線形、境界条件非線形があり、同社がタイミングベルトにおいてFEMを活用するケースとしては、ゴムや繊維材料では材料非線線形、大きな変形が生じる場合には幾何学非線形、プーリとの接触・摩擦が伴うケースでは、境界条件非線形の手法を採り入れている。張力測定用冶具のFEM解析については、線形解析を利用することで強度、測定精度を容易に特定することが可能、破損や測定精度不良をほぼ解消できる。加えて張力測定用ブラケットの固有値解析により、ベルト張力変動との共振を避けるような設計を可能とした。非線形FEM解析により、使用環境や条件を考慮したベルト設計が可能となり、異方性ゴム材料のモデルを使用することで、一段と高精度な解析ができるようになる。
講演会のアンカーを務めた特殊・合成潤滑油メーカーであるモレスコの林義和氏は「高・低温、高真空、高放射能線、ナノ領域―過酷な潤滑油環境への挑戦」のテーマで講演。同社では、鉱油系潤滑油では得られない特性を備えた合成潤滑油を手掛けており、使用温度領域の一層の拡大に挑戦。高温に耐えると同時に低温でも優れた潤滑性を発揮する新しい分子構造の合成油開発に取り組んでいる。講演ではモレスコ合成油の種類(フェニルエーテル系)を紹介。シリコーンやフッ素、鉱物油との比較を行い、高温・低温特性、潤滑性、ゴム・樹脂適合性、耐放射線性など、多くの物性項目で優れた特長を表した。同社としては「自己完結できる体制で事業を行っており、オイルの案件で相談事が生じた場合は、是非とも問い合わせてほしい」と述べ、講演会の幕を降ろした。